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佐藤 基 氏 by 佐藤 基 氏 | 8月 13, 2021

佐藤 基氏のキャリアとバックグラウンドについて

佐藤 基氏は、株式会社MOTTOの代表取締役で、企業が抱える様々なマーケティング課題の解決を目指した戦略立案と実行の支援ならびに、インフルエンサーマーケティング事業を展開しています。
2018年に株式会社MOTTOを創設する以前は、株式会社ディー・エヌ・エーにて、「逆転オセロニア」をはじめとしたスマホゲームのマーケティングを担当しました。以来、現在まで約10年間に渡り、計100タイトル以上のスマホゲームのマーケティングに携わっています。

佐藤氏のインタビュー記事については、こちらをご覧ください。

MOTTO社について

株式会社MOTTOでは、「ヒトの才能とモノの価値を、もっと」をコンセプトに、主にスマホゲーム、アプリ、エンターテイメントビジネスを展開している企業の抱えるマーケティングの課題を解決し、事業を成功に導くための支援を行っています。現在は、自社単独の取り組みだけではなく、様々な会社と協力・連携して、新しいソリューションサービスの開発、提供もしております。その他、少しでも業界全体への貢献を目指して、セミナーなどによる情報発信も積極的に行っています。

1.作り手と売り手でワンチームを築き、プロダクトの「価値」を共有する

開発、運営、宣伝等に多くのリソースを必要とするスマホゲームは、必然的に組織が大規模となるため、開発を担う作り手と、宣伝を担う売り手の役割が明確に分かれていることが多いです。その結果、作り手と売り手の考えや想いが乖離してしまっていることが大きな課題になっているケースをよく見てきました。とりわけ、開発期間が長いタイトルになると、更にその傾向が強まります。また、これはゲーム以外の業界でも言えることですが、「良いゲーム(プロダクト)を作れば売れる」といった“作り手ファースト”のカルチャーが根強く存在し、このことが更に両者の連携を困難にしているといったことも課題であると考えています。

両者の連携が取れないと、適切なマーケティングを行うことができず、市場での成功確率を大きく下げることにもなりますし、特に、「新しさ」が重要となるスマホゲームでは、リリース時のマーケティング戦略が非常に重要となるため、作り手と売り手の密な連携は、市場での成否において極めて重要だと考えています。

組織の構造は容易に変えられない上、社内に存在する“政治的要因”もあり、分断された部門をつなぐことは非常に難しいのですが、そういった中で、唯一のつなぎ役となるのは、プロダクトの持つ「ユーザーに提供する価値の共通理解」であると考えています。

機能的価値を提供するビジネスツール等と異なり、ゲームでは「情緒的価値」が重要となるため、その価値をいかにきちんと言語化して相互理解を図った上で、タイトルに関わるメンバーがワンチームとなれるかどうかが、市場での成功確率を上げるうえで、非常に大切になります。目指すべき価値を共有し、各メンバーがプロダクトへの関わり方を明確にできると、プロダクトへの愛情や理解、アイデアも生まれやすくなる好サイクルも生まれます。

そのためには、まずはマーケターが、プロダクトのユーザー視点での価値や強み=コアバリューをマーケティング視点で定義し、チームに対してマーケット視点を先導して共有することが大切です。そうすることで、自ずとチームが同じ方向を向くことが可能となり、その価値を高め、伝えることに一丸となることができます。

MOTTOでは、「ユーザーに提供する価値の定義と共通理解」をタイトルのヒットのために最も重要なことと考えて、そのサポートをしています。

2.プロダクトの4つの価値を定義し、強みを最大化する

スマホゲームでは、国内のプレイ人口自体が頭打ち状態になりつつあることもあり、ユーザーが既に何らかのゲームをプレイしていることが多いため、価値の見つけ出し方のポイントとして、「相対的」なものである必要があります。すなわち、ターゲットとなるユーザーが現在プレイしているゲームよりも、「違う価値」がある、もしくは「強い価値」を提供することが求められます。その上で価値を見つける方法として、4つの軸があると考えています。

  • 「新しい(これまでになかった)」
  • 「理解できる(知っている)」
  • 「流行っている(身近にユーザを感じられる)」
  • 「信頼できる(安心できる)」

これらは、ゲームで遊んでもらうための重要な4つの要素であるとともに、あらゆるプロダクトづくりやサービスのマーケティングに応用することができる考え方です。

まず1つめは、「新しい」と感じてもらうことです。そして、2つ目が、ユーザーに「理解できる」と感じてもらえることが重要になります。1つ目の「新しい」と少々矛盾しますが、例えば、「〇〇〇のような、〇〇〇みたいな」といったように、新しさの中にも、解釈や理解の余地をきちんと与えてあげることがキーとなります。ゲームの価値定義おいては、特に「新しい」けど「理解できる」ことは、非常に大きな価値を生み出す重要な要素となります。

3つ目は、一つのコミュニケーションサービスでもあるゲームならでは、の軸となりますが、「流行っている」ことです。学校や職場といったリアルコミュニティはもちろん、オンラインコミュニティにおいても、周りの人と同じゲームをプレイしていることが価値になるため、いかに流行感を作ることがマーケティングのポイントになります。

最後の4つ目は、「信頼できる、安心できる」ことです。この、信頼と安心の作り方は2つあり、1つめは、パブリッシャーの実績の蓄積によるブランド、2つめは、タイトル運営のユーザに対する姿勢、すなわちユーザーとの関係づくりとなります。前者はゲームにとって先天的、後者は後天的なものと言えます。スマホゲームは基本的にFree-to-playのため、ゲームをはじめる入口が広がった反面、ゲームをやめることも容易となり、長期的に遊んでもらう、そして課金をしてもらうためためには、特に「信頼」を価値とすることが極めて重要になっていると感じています。

こうした4つの価値の視点からタイトルの持つ強みを定義し、コアバリューを作っていくことが大事だと考えています。

3.価値から最適な戦略を組み立てる

スマホゲームの誕生から約10年が経過した現在では、マーケティングに係る施策のコモディティ化が進行し、そこにおける他社との差別化は困難になってきています。他のゲームより目立ち、ユーザーにゲームの魅力を広く伝えるといった面で、更なる創意工夫が求められるようになる中で、組織における意思決定の仕組みも手伝い、他社の成功事例ばかりを正とし、施策検討の際の拠り所にしてしまうといったことが起こりがちです。

しかしながら、他社の成功事例における手法、すなわち施策の部分だけを真似ても、決して同じ結果にはつながりません。

他社とマーケティングを差別化するためにも、まずは前述のプロダクトの価値そのものをユニークなものにする、そしてその伝えるべき価値に併せて、最適な戦略を組み立てていくことが肝になると考えています。テレビCM、デジタルマーケティング、インフルエンサーといったような様々な施策がある中で、伝えるべき価値が決まれば、自ずと施策の優先順位や、注力度合いが明確となり、それは結果的に他社との差別化にもつながります。

4.市場動向とユーザートレンドから、次の一手を決める

国内のゲームパブリッシャーは、今まさに海外に目を向けるべきタイミングであると考えます。
その理由としてはまず、市場環境の変化といったことが挙げられます。海外のスマホゲーム市場は、国内の約5~6倍程度の市場があり、それだけでも大きなポテンシャルがあると言えますが、その一方で、国内のスマホゲーム人口は既に頭打ちとなっています。ここ数年は、中華系パブリッシャーをはじめとした海外プレイヤーが国内に進出した結果、激しいマーケットシェアの奪い合いが起きており、このままだとポジションの維持が難しくなることは明白です。

また、2つ目としては、日本のスマホゲームが海外展開をするための環境が整ってきていることが挙げられます。たとえば、これまで海外のユーザーには日本の代表的なスマホゲームのシステムは受け入れられにくいと言われていました。しかし、海外におけるスマホゲーム市場の成熟、デバイスや通信性能の向上などによって、日本的なスマホゲームシステムが受け入れられるようになってきています。加えて、国内企業の開発技術も世界で戦えるレベルに達しており、まさに、今、これまでの溝が埋まり、いろいろな成功のための要素が、揃ってきている状態であることは間違いないと考えています。

これまでの日本のコンソールゲームのグローバルヒットが指し示すように、日本のゲームが提供する「価値」は、基本的にグローバルに通用するはずです。そう遠くないうちに、グローバルで大ヒットするスマホゲームが日本からも生まれる可能性は高いと思っています。

本質、原点に立ち返ることの重要性

スマホゲーム黎明期から数々のタイトルのマーケティングに携わってきた立場として、定量データだけでなく、ユーザーの声を把握できるインタビューやアンケートをはじめとした定性データも踏まえ、プロダクト作りやブランディングの部分も含め、全体をきちんと見た上で、マーケティングを行っていくことが重要であると強く感じています。
一方、スマホゲームはデジタルプロダクトであるが故、可視化しやすいROIやROASといった数値の善し悪しに注目してしまう傾向があり、どうしても近視眼的なマーケティングに陥りがちです。

しかしながら、マーケティングの成否において何よりも重要かつ、強大なパワーを持つのは、プロダクトそのものがユーザーに提供する「価値」であり、その価値が果たしてユーザーに届いたのか、届いていないのか、といった部分をきちんと把握し、PDCAを回していくことが最も重要であると考えています。そのためには、先述の価値の定義、共有を通じた、作り手、売り手の相互連携や理解といったことが必要となります。

また、ビジネスとしての規模が大きく、必然的にマーケティングに充てられる予算規模が大きいため、テレビCMをはじめとしたマス向け施策や、インフルエンサーの活用といった、よりユーザーに近い領域での施策はもちろん、今後は海外市場向けのマーケティングの機会も増えると予想されます。

こういった面から、スマホゲームのマーケティングは、特定の領域に囚われない総合的な視点や、新しい発想でのアクションが必要なダイナミックな領域であり、マーケターとしての幅広い経験を積むことができる、とても魅力のある仕事であると考えています。